創業大正10年(1921年)。志免町で100年以上続く鏡工場「九鏡」。
行政書士になって間もない頃、ふと思い出した方がいました。
近所にある鏡工場「九鏡」の社長さんです。
終わりの見えない「鏡の話」と、手渡されたサンプル
数年前のこと。事務所のすぐ裏手にある鏡工場の前を、何気なく歩いていました。
「へぇ、こんな近くに鏡の工場があるんだ。」
それくらいの軽い気持ちで、建物の前に貼られた鏡についての案内を眺めていると、奥から社長が出てこられました。
私はただ通りかかっただけでした。
そんな私に始まったのが、終わりの見えない鏡の話です(笑)。30分では終わらなかったと思います。
- 普通の鏡は少し青白く見えるけれど、うちの鏡は血色まで自然に映る。
- テレビ局のアナウンサー室にも使われている。
- 幼稚園や学校、病院にも採用されている。
「鏡なのか、本物なのか分からないくらい反射するんですよ。」
そう言って社長は、本当に楽しそうに熱弁してくださいました。
さらに、「普通の鏡」と「血色が良く映る、反射がすごい鏡」の2種類の小さな鏡のサンプルまで、わざわざ私に持たせてくれたのです。
最後まで「買ってください」という営業は一切ありませんでした。あるのは、「うちの鏡がどれだけすごいか」という話だけ(笑)。
気がつけば私は、家を買ったらこの鏡をつけよう!!と心に誓っていました(笑)
ベルサイユ宮殿の歴史に繋がる「サンゴバン」という誇り
その話の中で、何度も何度も出てきた名前が「サンゴバン」でした。
たまたま私は古いフランス車のシトロエンに乗っていて、車のガラスに「SAINT-GOBAIN」と刻まれていたのは知っていました。「ああ、あのガラスメーカーだ」そのくらいの認識でした。
よくよく調べてみると、サンゴバンは1665年、ルイ14世の時代にベルサイユ宮殿の「鏡の間」に使う鏡を作るために設立された王立企業が始まりでした。360年以上の歴史を持つ、世界有数のガラスメーカーです。
大阪の町工場などでもよく言われますが、他では真似のできない技術力を持った企業というのは確かに存在するものです。そんな世界最高峰のメーカーから技術を認められていることを、社長は本当に誇りにしておられました。
サンゴバンの会社案内まで持ってきてくださり、「ここがすごいんですよ!」と研究開発の話まで始まります。
何より印象に残っているのは、その絶対的な自信です。
「他ではできない。」 「うちの職人が一番。」
少しも迷いなく、そう言い切るのです。 そこには決して偉そうな態度も、押し売りのような気配もありません。長年泥臭く積み重ねてきた技術への揺るぎない誇り。そんな力強さが言葉から自然と伝わってきました。
塾の教室で、社長の受け売りを熱く語る自分
私は学習塾の運営もしているのですが、中学校1年生の理科では、「光の反射」を習います。教科書の平面的な図だけでは、なかなか子どもたちにその面白さが伝わりにくい単元です。
そこで私は、あのとき社長からもらった2枚のサンプルを教室に持って行きました。
「普通の鏡って実は少し青白く映るんだよ? だけど、ほら、この鏡を見てみ!」
九鏡さんの鏡がいかに素晴らしいか、地元にこんなにすごい会社があるんだということ。手元のサンプルで実際の反射を見せながら、気づけば私は、あの日の社長の受け売りで子どもたちに熱く語っていました(笑)。
社長から受け取った仕事への熱量が、塾での授業を通じて、未来ある子どもたちの知的好奇心へとバトンタッチされた瞬間でした。
数年越しの依頼、そして再度の「熱弁」
数年後、私はマンションを購入しました。その時、真っ先に浮かんだのがあの社長の顔でした。
「あの鏡を付けてもらおう。」
そう思い、九鏡さんの工場へお願いに行きました。 社長は私のことをしっかりと覚えていてくださいました。……そして、また最初からあの鏡の話が始まります(笑)。
サンゴバンのこと。妖精の鏡のこと。病院や学校に採用されていること。 一度聞いたはずなのに、まるで初めて話すかのように再び熱く語ってくださるのです。
でも、不思議と嫌な気持ちにはなりませんでした。むしろ、「本当にこの仕事が好きなんだな」と感じて、こちらまで心が温かくなり、楽しくなってくるのです。
職人さんが来られるのかと思いきゃ、工事当日もなんと社長自ら来られ、一人で丁寧に施工してくださいました。
玄関と寝室に取り付けてもらったその鏡は、今でも我が家で毎日、変わらぬ輝きで私を映してくれています。
営業への遠慮が消えた、社長の教え
それまでの私は、自分の強みを前面に出すことに、どこか遠慮や気恥ずかしさがありました。
でも、社長と出会って、その考え方が変わりました。
本当に自信を持てる技術や仕事なら、胸を張って伝えていい。
それは単なる自慢ではなく、お客様に対する責任でもあるのだと教えられた気がします。
行政書士になり、そのご報告とご挨拶に伺おうと思って、久しぶりに会社を訪ねました。 しかし、出迎えてくださった社員の皆さんの様子が、どこかおかしい。
お話を伺うと、社長はつい最近亡くなられていました。 あの熱い話を、もう直接聞くことはできません。
毎朝、鏡を見るたびに背筋が伸びる
今日も玄関であの鏡を見ながら身だしなみを整えます。
鏡を見るたびに思い出すのは、自分の顔ではなく、
「他ではできない。」
「うちの職人が一番。」
と胸を張って語っていた社長の姿です。
私も行政書士として、いつかそんなふうに胸を張って仕事を語れるようになりたい。
そのためには、まず一件一件のご依頼に誠実に向き合い、自分自身が胸を張れる仕事を積み重ねること。
そう思いながら、今日もお客様のもとへ向かっています。
九鏡株式会社
今回ご紹介した九鏡株式会社は、福岡県志免町で創業100年以上の歴史を持つ鏡の専門メーカーです。
ご興味のある方は、公式ホームページもぜひご覧ください。
九鏡株式会社 公式サイト
https://kyukyo.co.jp/
特に「妖精の鏡」や技術紹介のページは、鏡に対する考え方が変わるかもしれません。


