さて、今回は「万が一」が起きてしまった直後、残された家族が最初に直面する、最もリアルなお金の話をしたいと思います。

不謹慎な話に聞こえるかもしれませんが、とても切実なタイムラインの話です。

  1. 死亡届を出す
  2. 葬儀社に連絡→お葬式の手配
  3. 葬儀費用を払おうとしたら口座が凍結されていてお金が出せない
  4. では誰がどこから出すのか?

この段階にきて、初めて目の前が真っ暗になるご遺族が少なくありません。

「口座が凍結されていて、お金が1円も出せない……!」

そう、人が亡くなると、銀行がその死亡(訃報)を知った時点で、即座に口座を凍結します。 これは親族間の勝手な引き出しによるトラブルを防ぐための法律上の仕組みなのですが、残された側からすればたまったものではありません。

葬儀費用は、一般的に数十万から、規模によっては百数十万円かかります。 「じゃあ、そのお金は一体どこから持ってくるのか?」という話です。手持ちの現金がなければ、その時点で文字通り「即詰む」という、非常にシビアな現実が待っています。

経営者の場合は、さらに事態が深刻になる

これがごく普通の会社員のご家庭なら、「とりあえず親族が立て替える」という方法で乗り切れるかもしれません(それでも大金ですが)。

しかし、もし亡くなったのが私のような「小さな企業の経営者」や「個人事業主」だった場合、事態はさらに深刻になります。

個人事業主の場合、生活費の口座と事業の運転資金が地続きになっていることが多く、そこが丸ごと凍結されます。家族の生活が止まるだけでなく、「今月末の社員への給料が払えない」「事務所の家賃が落ちない」「支払いができない」という事業上の大パニックが同時に押し寄せてきます。

株式会社の一人社長の場合は、法人名義の口座は凍結されません。では安心かというと、そうではありません。

代表取締役という地位は相続されないため、社長が亡くなった瞬間に「会社の代表者が不在」という状態になります。他に取締役がいる会社であれば、取締役会を開いて後任を選任できますが、それでも手続きには時間がかかります。

一人社長の場合はさらに深刻です。そして、一人社長がその唯一の株主でもある——というケースが中小企業では珍しくありません。この場合、新しい代表を決めるための株主総会を「招集する取締役」も「出席して決議する株主」も、同時に不在という完全なデッドロック状態に陥ります。

株式は相続人に引き継がれるので、相続手続きが進めば解決に向かいます。しかし、相続人が複数いる場合、遺産分割協議が終わるまでは株式が相続人の共有状態となり、会社の意思決定はその間ずっと止まったままになります。協議がもめれば、裁判所に申し立てて暫定的な取締役を選任してもらうという、さらに面倒な手続きが待っています。

誰も会社の契約に署名できず、取引先への対応も宙に浮く。悲しんでいる暇など1秒もないくらい、残された人たちは重い手続きと資金繰りの波に飲まれてしまうのです。

プロに相談して初めて気づいた、本当の危機管理

実は、偉そうにこんなことを書いている私自身、自分だけで考えているときは全く実感がありませんでしたし、考えもしなかったことばかりでした。

地元の法律事務所の先生に相談し、やり取りを重ねる中で、「もし明日倒れたら、会社の口座はどうなりますか?」「お葬式代の権限はどうしますか?」と次々に具体的な問題が浮き彫りになり、初めて事の重大さに気づかされたのです。

あの時、プロの視点で網羅してもらい、私の代わりに遺言を実行してくれるサポーター(遺言執行者)までキッチリ指定した公正証書遺言を作れて、「本当に本当によかった」と心から思っています。

多くの人は「遺言書=誰にいくら分けるか」という、財産の話ばかりに目を奪われがちです。 ですが本当に大切なのは、「自分が去った翌日から、残された人がどんな順番で困るか」をリアルに想像して手を打っておくこと。

だからこそ重要になるのが、「遺言執行者」の存在です。誰に頼むべきか、だれに頼めるのかなど、次回詳しくお話しします。

もし「そういえば、明日自分の身に何かが起きたらどうなるんだっけ……」と少しでも引っかかるところがあったなら、まずはこのブログを読みながら、ご自身の「もしも」を少しずつ整理してみてください。正式に動き出す前の「ふんわりとした気づき」を持っておくだけでも、いざというときの備えは大きく変わります。

遺言を英語でなんて言う?

最後にちょっと余談ですが、「遺言」を英語で何と言うかご存知でしょうか。

答えは “ will ” 。 学校で「〜するつもり」と習うあの未来の意思を表す単語ですが、名詞として使うと「個人の強い意志」、そこから転じて法律用語で「遺言(書)」という意味になります。まさに「私が去った後も、こうする意志がある!」という強い思いがそのまま言葉になっている感じですね。

ちなみに、実務上の正式な書類としては、海外の映画やドラマの相続シーンでも出てくるこの表現が使われます。

Last Will and Testament (ラスト・ウィル・アンド・テスタメント)

Last Will が「最終的な意志(遺言)」、Testament は「(財産処分の)遺言」という意味で、二つ合わさって海外の遺言書にドーンと書かれるお決まりのフレーズです。

硬い法律のお話、最後までお読みいただきありがとうございました。

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