前回は、遺言書や不公平な分け方に納得がいかないときの「遺留分(最低限の取り戻し権)」と、そこにある「1年」というタイトなタイムリミットについてお話ししました。
シリーズの締めくくりとなる第7回は、すべてのベースとなる超・基本でありながら、時代の変化とともに現代の現場で最も切実なテーマについてお話しします。
それが、「そもそも、法律上『相続する権利がある人(法定相続人)』は誰なのか」、そして「その配分はどう決まっているのか」という問題です。 特に最近増えている「多様な家族の形」を選択されているご家庭には、法律の非常に厳格な線引きを知っておいていただきたいと思います。
法律の世界は驚くほどドライ。戸籍上の「配偶者」という高い壁
まず、法律上の大前提として、亡くなった方(被相続人)の「配偶者」は、どんな状況であっても常に最優先で相続人となります。
ただし、ここでいう配偶者とは、戸籍上の「法律婚(籍を入れていること)」をしている妻や夫に限られます。
最近は、あえて籍を入れずに人生を共にする「事実婚」や、お互いを尊重し合う「パートナー婚」という形を選ばれるご夫婦が本当に増えています。周囲からも「本当におしどり夫婦だね」と認められ、何十年も同じ家で仲良く暮らしていたとしても、法律上は、戸籍による線引きが非常に厳格です。
法律婚をしていない内縁の配偶者には、法律上の「法定相続人」としての権利は原則として認められていません。
もし、長年連れ添った最愛のパートナーが突然亡くなってしまったとき、法律上の相続人が「亡くなった方の兄弟」や「普段付き合いのない甥や姪」だった場合、自宅の不動産や預貯金はすべてその親族たちのものになります。
残されたパートナーには相続権がないだけでなく、場合によっては、住み慣れた自宅を維持できなくなるケースもあります。どれだけ生前に尽くし、寄り添っていたとしても、法律の線引きの前では法律上の相続権を主張することはできません。現在のルールにおけるリアルな落とし穴です。
だからこそ、事実婚やパートナー婚を選ばれているご夫婦にこそ、生前に「遺言書」を遺しておくことが、大切な相手のこれからの生活を守るための、とても重要な備えになります。
法律が定める「3つの優先順位」と財産の配分
法律上の配偶者がいる場合、その他の血族には厳格な「優先順位」が決められており、配偶者は「その時の一番上の順位の人」とペアを組んで遺産を分け合うことになります。
≪第一順位≫ 子ども(孫・ひ孫)
最優先されるのは亡くなった方の子どもです。子どもが複数いる場合は、全員等しい割合で分け合います。
- 配分: 配偶者が2分の1、子ども(全員分で)2分の1
- ここがポイント: ここでよく誤解されがちなのが「再婚」のケースです。前配偶者(元妻・元夫)は相続人になりませんが、「前配偶者との間に生まれた子ども」は、現在の家族と全く同じ扱いで第一順位の相続人となります。また、戸籍上「認知」されている子どもや、養子、まだお腹の中にいる胎児も、無事に生まれれば、相続については既に生まれていたものとして扱われます。 一方で、「今の配偶者の連れ子」は、同じ戸籍に入って一緒に暮らしていても、そのままでは相続人にはなりません。もし連れ子にも実子と同じように相続権を繋ぎたい場合は、生前に「養子縁組」をしておくなどの対策が必要です。
💡 さらに現実を先読みする「遺言テクニック」 子どもが自分より先に亡くなっている場合は、その子どもである「孫」が権利を引き継ぎます(これを代襲相続といいます)。
ここで仕組みの上で非常に重要になるのが、「財産を譲る予定だった相手(長男など)が、自分より先に亡くなってしまう」という、まさかの逆転ケースです。 もし「長男にすべてを譲る」とだけ書いた遺言書を用意していても、その長男が先に亡くなってしまうと、その部分の遺言は効力を失ってしまいます。これでは、本来避けたかった親族間での話し合いに逆戻りです。
だからこそ、万全を期すために、遺言書には「もし、長男が先に亡くなっていた場合は、長男の子(孫)である○○に譲る」という形で、万が一の事態まで先回りして指定(予備的遺言)しておくことが、対策の上でとても有効な備え方になります。
≪第二順位≫ 両親(祖父母)
亡くなった方に子ども(または孫など)が一人もいない場合、初めて次の順位である「両親」に権利が移ります。
- 配分: 配偶者が3分の2、両親(二人分で)3分の1
≪第三順位≫ 兄弟姉妹(甥・姪)
子どももおらず、両親や祖父母も全員亡くなっている場合に、ようやく最後の順位である「兄弟姉妹」に権利が移ります。
- 配分: 配偶者が4分の3、兄弟姉妹(全員分で)4分の1
- ここがポイント: もし兄弟姉妹の中に先に亡くなっている人がいる場合は、その人の子ども(甥・姪)が権利を引き継ぎます。 子どもや両親がいない法律婚のご夫婦の場合でも、旦那様が亡くなると、奥様は「亡き夫の兄弟や、普段付き合いのない甥・姪」と遺産分割の話し合い(全員の実印集め)をしなければならなくなります。実は、最も遺言書による事前対策が必要となる、盲点になりやすいケースと言えます。
「わが家の全体像」を正しく把握することから
全7回にわたってお届けしてきた【相続編】シリーズ、いかがでしたでしょうか。
相続の手続きが大変なのは、決して家族の仲が悪いからではなく、「法律の厳格なルール」と「タイトな期限」、そして「多様化する現代の家族の形と、法律の厳格な線引き」が、万が一の時に一気に動き出すからです。
だからこそ、元気なうちに「うちの場合は、万が一のときに誰が相続人になって、どんな手続きが必要になるんだろう?」という全体像を正しく把握し、自分たちに合った備え(公正証書遺言など)のイメージを持っておくことが、残される大切な家族への「最大の優しさ」になります。
私は近い将来、志免町や糟屋郡、そして近隣の皆様が、未来へ向けて安心して納得のいく準備ができるよう、地域の身近な専門家としてお役に立てるよう、現在準備を進めています。
「万が一のとき、うちの家族の形だとどうなるのかな……」と少しでも気になったら、まずは小さな一歩として、ご自身の家族の家系図を思い浮かべながら、未来の整理を始めてみてください。
これからも、皆様の安心を支えられるよう、実際の暮らしに役立つ法律や終活の情報を、分かりやすく発信していきたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

