今や「ペットは大切な家族の一員」という考え方は完全に定着しています。
その一方で、現代は「おひとり様」の世帯も増えています。
もし、一人暮らしのあなたに今夜、万が一のことが起きたら……。言葉を話せない愛犬や愛猫の命を、そしてその未来を確実に守るために、ノートへ絶対に書き残しておくべきポイントがあります。
今回は、私自身の愛猫のお話も交えながら、ペットのための「確実な備え」と、現代に欠かせないデジタル終活についてお話しします。
大切なのは、自分が倒れて意思表示ができなくなったその瞬間から、残された周囲がパニックにならないよう、以下の「3つの柱」を元気なうちに整理しておくことです。
実務から見える「ペットと自分のための備え」3つの柱
柱1:もしものときの「病院やケアの希望」
まずは一番切実な「自分が倒れたとき、どんな治療やケアを受けたいか」というページ。 万が一、意識不明の重体になったときに延命治療を望むのか、どこの持病の病院にかかっているのか。あなたが言葉を発せなくなったとき、あなたの代わりに「私はこうしてほしい」と医師や周囲に伝えてくれる、大切な意思表示になります。
柱2:翌日から周囲が困る「ペットの引き継ぎ」
自分が病院に担ぎ込まれたその日の夜から、愛するペットの生活は止まってしまいます。彼らの命をつなぐために、以下の日常ケアを書き残しておきましょう。
- 「次の飼い主」は誰か(最重要): 事前に合意をとってある引き取り手の氏名と連絡先。ここが空白だと周囲が途方に暮れます。
- かかりつけの動物病院と「持病・薬」: 毎日何の薬をどうやって飲ませているか。持病がある子の場合、命に関わります。
- 毎日のゴハンの種類と量: 「うちの子のゴハンはこれをこれだけあげてね」というルーティン。フードは驚くほど細かく種類が分かれているため、普段お世話をしていない人には全く分かりません。
- 特有の癖や「嫌がること」: 知らない人が来るとケージの奥に隠れて出てこない、ここを触られると怒るなど、摩擦を減らすための約束事です。
柱3:現代の必須項目「デジタル終活」
もう一つ、現代の終活で絶対に見落とせないのが「デジタル終活」です。 スマホのロック解除パスワードをはじめ、ネットバンキング、ネット証券、サブスクリプション(月額課金)サービスのアカウント情報など、私たちがネット上に残している足跡は膨大です。これらが分からないと、自分が倒れた後に不要な課金が引き落とされ続けたり、家族が手続きできずにパニックになったりします。
たとえば身近な例として、iPhoneを使っている方なら「故人アカウント管理連絡先」という機能をご存知でしょうか。

生前にこの設定をしておくと、登録された人(登録者)にアクセスキーが共有されます(印刷やiMessageなど複数の方法で共有可能)。アカウント所有者の死去後、登録者が死亡診断書や戸籍謄本などとアクセスキーをAppleに提出し、所定の審査を経ると、故人のAppleアカウントにアクセスできるようになります。
思い出の写真や連絡先を遺族がスムーズに引き継げる、非常に優れた仕組みです。 こうした便利なスマホの機能もフル活用しつつ、ログインIDや解約してほしいサービスのリストをノートにそっと書き残しておきましょう。
我が家の「ティム」のお話と、法律の現実
ここで少し、我が家の話をさせてください。 我が家には「ノルウェージャンフォレストキャット」などという、たいそうな名前のついたでっかい北欧生まれのもふもふな猫がいます。名前は「ティム」。まだ2歳なのですが、すでに体重が6.5キロもあり、そこらのポメラニアンやダックスフントなどよりよほどでかいです(笑)。

私にとっては目に入れても痛くない大切な家族ですが、いくら溺愛しているからといって、本物の遺言書に「愛猫のティムにすべてを相続させる」とは書けませんのであしからず。
法律上、ペットは財産を受け取る権利(権利能力)を持てないため、そんな遺言を書いても無効になってしまいます。
「ペットのための備え」の正解
では、愛するペットに不自由なく暮らしてほしい場合、どうすればいいのでしょうか。
実務上、よく用いられる方法の一つがこうです。
「ノートでお世話の詳細(次の飼い主)を決め、その人への財産の手当ては遺言書で行う」
「次の飼い主」に指定した人に対し、ペットの終身飼養を条件に財産を遺贈する形(負担付遺贈など)をとるのです。
- ノートや手帳: 医療の希望、デジタルの鍵、長年の相棒であるペットのゴハンや「次の飼い主」の指定(=命と意思をつなぐバトン)
- 遺言書: 次の飼い主への財産的サポート(=生活を支える資金)
この2つを組み合わせて初めて、おひとり様の万が一の際にも、自分自身の尊厳と、愛するペットの未来を他ならぬあなた自身の手で守り抜くことができるのです。
なお、「負担付死因贈与契約」や「ペット信託」といった方法もあります。財産の規模や状況によって最適な方法は異なりますので、専門家にご相談ください。
「エンディングノート」という名前がちょっと・・・な方へ
「エンディングノート」という名前自体が、人生の終わりを突きつけられているようでなんだか気が滅入るし、いまひとつピンとこない……という方も多いのではないでしょうか。実は私も、その中の一人です。
そんな方にご紹介したいのが、エンディングノートとは別に、「わたしのいきかた手帳」と呼ばれるようなものです。
これは、自分のこれから先の医療や介護の希望について話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(愛称:人生会議)」を行うために大切な、“わたしを知ってもらうための手帳”です。
そもそも、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?
もしも自分が病気になったり介護が必要になったりしたとき、どんな治療やケアを受けたいかを前もって考え、家族や医師と繰り返し話し合っておく取り組みのことです。
(詳しくは→ 厚生労働省 自分らしく生きるための「人生会議」ポータルサイト)
死んだ後のためではなく、「これから先、自分が病気になったり介護が必要になったりしたとき、どんな風に過ごしたいか」という、前を向いて生きるための作戦を立てる手帳なんですね。
呼び名は何でも構いません。大切なのは、自分が倒れて意思表示ができなくなったその瞬間から、残された周囲がパニックにならないよう、「お気持ち」を元気なうちに整理しておくことです。
全6回にわたって、私自身の「公正証書遺言」作成の体験から、遺言執行者、長短を補い合うノートの活用術までお話ししてきました。
「そういえば、明日自分の身に何かが起きたらどうなるんだっけ……」
そんなふんわりとした不安を、確かな安心に変える第一歩は、ノートを1行埋めてみること、あるいは信頼できる専門家を探してみることかもしれません。

