続いては、民法について。 法律の本をパラパラめくってみても、民法だけが異様に厚みがあったりしますよね。行政法の次にボリュームがあるジャンルですが、あの「厚み」には理由があるのだと感じます。

「厚みがある」ということは、それだけ条文(ルール)が多く、裏を返せば、それだけ現実世界で「もめ事」が多いということではないでしょうか。

隣の家との境界線、買った商品の不具合、お金の貸し借り、あるいは家族間の相続。私たちの生活に最も密着している法律だからこそ、人間味あふれる(かつドロドロした)トラブルの数だけ、解決のためのルール必要だった。そう思うと、あの本の厚みが少し怖くもあり、同時に「誰にとっても身近な法律なんだな」という妙な納得感も湧いてきます。

数学の「数直線」と、民法の「相関図」

私は日頃、学習塾で数学なども教えているのですが、そこでも感じることがあります。 数直線を書いたり、式を丁寧に書き出したりする手間を惜しまない子が、結局は間違えずに正解にたどり着くのです。文章を読んで頭の中だけで考えていると、どうしてもどこかでボタンの掛け違いが起きる。だからこそ、私は子供たちに「簡単でいいから数直線や図を書いて解きなさい」と言い続けています。

実は、これは民法でも全く同じことが言えるのです。

民法には登場人物が次々現れます。「A・B・C・D」ならまだしも、「甲・乙・丙」、さらには「丁」なんて出てくると、もう大混乱です。これを頭の中だけで処理しようとすると、必ずどこかでおかしなことになってしまいます。

だからこそ、私は問題文を読みながら必ず余白に「略図」や「相関図」を描くようにしていました。

「甲が乙に売り、乙が丙に転売した……」という複雑な関係も、下手な絵でもいいから矢印一本引いて可視化する。数学の数直線が数値の並びを整理してくれるように、民法の図は「誰が誰に対して、何を主張できるのか」を明確にしてくれる唯一の地図でした。だいたいはカネの流れ、モノの流れ。それを図で書いて整理するのが、何より大切です。


「頼まれてもいないのに」動き出す、事務管理の世界

私が受験した令和7年度(2025年)の記述式試験(問46)では、まさにこの民法の人間臭さを象徴する「事務管理」が問われました。実際の設問がこちらです。

【令和7年度・問46】

Aは、Bの所有する隣家の火災(以下「本件火災」という。本件火災は、A及びBの故意・過失によるものではない。) を見つけ、消防署に通報した。本件火災は、ボヤ(小火)であったので、これを消し止めることができると思い、Aは、Aの家に備え付けてあったA所有の消火器を用いて消火活動を開始した。この場合に、どのような法的根拠に基づき消火活動を継続しなければならないか。また、Aは、消火器を使ったため新たな消火器を購入する必要が生じたが、そのための費用を、どのような法的性質を有するものとしてBに対して償還を請求することができるか。民法の規定に照らして、40字程度で記述しなさい。

事務管理とは、一言で言えば「頼まれてもいないのに、他人のために何かをしてあげること」。 試験では「隣家が火事の際、自分の消火器で火を消したAさんは、Bさんに消火器代を請求できるか?」という、まさに「お節介のルール」がテーマでした。

ここで私は、記述式の洗礼を浴びることになります。

「有益費」か、それとも「有益“な”費用」か

私は消火器代を「必要費」と書いてしまったのですが、試験直後の各予備校の講評速報でも「必要費でもいいんじゃないか」「いや有益費だ」「条文の通り、有益“な”費用と書くべきだ」と、講師の間でも意見が分かれるような問題だったのです。

最終的に、行政書士試験センターが掲載した公式の模範解答はこうでした。

【試験センター模範解答】

Aは事務管理に基づき消火活動を継続しなければならず、Bに対し有益費の償還を請求できる。(43字)

結果としては「有益費」で落ち着いたわけですが、条文にある「有益な費用」という一文字のニュアンスまで含めて、講師ですら議論が白熱する。数学なら答えが合っていれば正解ですが、法律の世界では「条文がその事象をどう定義しているか」という正確性が、合否を分ける数点の差になるのです。

ただ、もちろんすべて正しく書けることが理想ではあります。しかし今回の問題の最大のポイントは、「事務管理」という概念にそもそも気づけたかどうか、そこに尽きるのではないかと思います。

記述の採点は最終的にはブラックボックスのようですから。勉強するときはあまり細かなことにとらわれずに全体をふんわりとらえるくらいにしないと進まないと思います。


「借りたものは返せよ!!」が通じない壁をAIと超える

勉強していると、思わず「借りたものは返せよ!!」「勝手に自分のものにするなよ!!」と問題に突っ込みたくなること請け合いです。

特に「取得時効」。他人の土地でも善意無過失なら10年、そうでなければ20年間占有し続けたら自分のものになる……。「現実にそんなことあるの???」という事例のオンパレードで、にわかにイメージが湧きにくいのです。

そんなイメージの壁を乗り越えるのに、AI(人工知能)にはどれほど助けてもらったことか。 「10年も他人の土地を占有して自分のものになるってどういう話??」という私の疑問に対し、AIは「『権利の上に眠る者は保護されない』という考え方がありまして……」と、法がなぜそのルールを作ったのか、背景にある思想まで噛み砕いて教えてくれました。

図解で「形」を捉え、AIとの対話で「心」を理解する。 この二つの補助輪があったからこそ、私は民法のドロドロした迷宮を、なんとか最後まで歩き通せたのだと思っています。

余談ですが、この「問題文に突っ込みたくなる現象」は、塾で教えている英語のテキストでもよく起こります。

お父さんは毎週車を洗います。 My father washes his car every week.

まあね、それはいいとして

あなたは食後に皿を洗いますか?いいえ、私のお父さんが洗います。

Do you wash the dishes after dinner?  No, my father does.

……いや、お父さんにやらせるなよ!! と、心の中で全力で突っ込んでしまいます(笑)。

こうした日常の、あるいは法律の「ちょっとおかしな事例」に突っ込みを入れながら学ぶのも、勉強を楽しく続けるコツかもしれません。

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