■ 「そこは広すぎます」——試験開始直前の宣告
いよいよ試験当日。私は万全の体制でオフィスのデスクに座り、PCを立ち上げました。ええ、余計なものが入ってるとまずいらしいのでクリーンインストールしたPCまで用意しましたよ。画面越しに現れたのは、厳格そうな試験監督員です。
「ウェブカメラで、今あなたがいる部屋の周囲をぐるっと一周、撮影して見せてください」
指示通り、自信を持って広々としたオフィスの全景を映し出しました。死角もなく、集中するには最高の環境。……のはずでした。ところが、監督員の口から出たのは非情な一言でした。
「……あー、そこはダメです。ひらけたオフィスのような空間ではダメです。もっと完全に閉鎖された、誰も入ってこれない場所に移ってください」
「いや、だれも入ってきませんし、私しかいませんし、鍵もかけてますが」
「ダメです」
といってもどうしろと。これは日を改め場所もあらため再試験かとパニックになりかけましたが、試験のルールは絶対です。
「……閉鎖された空間といっても、他にはトイレくらいしかありませんが……」
「そこを見せてください」ノートPCをもってカメラ撮影したままトイレへ行き、またまわりをぐるっと撮影し。
「……あ、そこならOKです。ドアを閉めて始めてください」
■ 灼熱のトイレ
こうして、私のAWS試験会場は、まさかの「トイレ」に決定しました。
トイレに即席のワークスペースを作り、ノートPCを設置。椅子を持ってきて座り、そしてドアを閉める。。。
時は夏の真っ盛り8月19日。 当然、トイレにエアコンなどありません。閉め切った小さな空間に、PCが放つ熱気と私の焦りによる湿度が充満し、室温はみるみる上昇していきます。暑いです。汗が目に入りそうになるのを堪えながら、画面上の複雑な問題と格闘しました。無理な前傾姿勢で、背中も腰も痛い。
しかし、本当の試練はそこからでした。 試験開始からしばらく経った頃、追い打ちをかけるように「その時」がやってきたのです。場所が場所ですし体がそういう反応になるのか
トイレいきたい。。。
これほどまでの絶望があるでしょうか。 目の前には便器がある。物理的には「その場所」にいるのです。 しかし、私は世界基準の厳格な試験の真っ最中。ウェブカメラで一挙手一投足を見張られています。
少しでもカメラのフレームから外れたり、不審な動きをしたりすれば、その瞬間に即・失格。 「試験を終わらせてトイレに行きたい。でも、トイレの中にいるのに、トイレができない……」
この圧倒的な矛盾を抱えながら、最後は「もう合否とかどうでもいい、とにかくトイレ💦💦」という一心で、凄まじい集中力を発揮して解答を叩き続けました。
■ トイレの先にあった「合格」
結果は、見事に合格!
合格ラインの720点に対して、スコアは731点。まさに、あの極限状態の中での「ギリギリの勝利」でした。

でも、今振り返れば、この経験が私に小さな自信をくれたのは確かです。
私は雪国の出身で、 小学生のころはひざまで雪に埋もれながら登校していましたし、高校生になってバス通学になっても、冬は時間通りにバスなんて来ません。福岡だったら間違いなく臨時休校になっているレベルの吹雪の中を、1時間以上も雪の上を歩いて登校したものです。
私の中に「結構な苦境に出くわしても、あの時の過酷さに比べれば全然マシ」と思えるタフさがあるのは、間違いなくこの少年時代の原体験があるからです。
そこに、「あの夏の日の、灼熱のトイレの絶望(笑)」が加わりました。
「あの過酷な状況下で、最後まで解ききれた」そんな実感が、その後の行政書士試験に挑む際の、精神的な支え(あるいは、しんどくなった時の「あのトイレに比べれば……」という笑い話)になった気がします。
オンラインで自宅で受験というのも増えてますが、「トイレで受験したやつ」というのは、世界中に私ひとりだけかもしれません(笑)。
■ 資格という「形」は卒業しますが
そんな思い出深いIT資格「AWS認定(SAA)」も、今年の8月でついに更新期限を迎えます。 今から再認定の勉強をする時間はとても取れそうにないので、認定証としての「形」は一度お別れすることにしました。

けれど、あのとき必死に学んだことや、何より「あの極限状態」を乗り越えた経験は、今も自分の中にしっかり残っています。
公式な資格の更新はしませんが、これからは「自分なりのチャレンジの記録」として大切に思い出しつつ、実務の現場でその経験を活かしていこうと思います。何しろ、トイレで受験して合格したなんて経験、そうそうできることじゃないですから。
(おわり)
