みなさん、こんにちは!

先日、大阪・グラングリーン大阪内の文化装置「VS.(ヴイエス)」で開催されている、坂本龍一さんのMR作品《KAGAMI》を中心とした『Ryuichi Sakamoto & Tin Drum | KAGAMI+』を観に行ってきました。

《KAGAMI》は、坂本龍一さんのピアノ演奏を三次元的に捉え、複合現実(MR)の空間に再び立ち上げる作品です。

坂本さんと、Todd Eckert(トッド・エッカート)率いるTin Drumが、坂本さんの人生最後の4年間をかけて制作したプロジェクトで、2023年のニューヨークでの世界初演以降、世界各地で上演されてきました。

そして今回、ついに日本で初めての上演となっています。

10数年ぶりの大阪に行ってみたら……

会場に向かうにあたって、

「10数年前に大阪に住んでいたんだし、行けばすぐ分かるだろう」

と、ろくに調べずに向かったのですが……。

大阪駅の改札を出て、びっくり。

かつて梅田貨物ターミナルだったエリアがすっかり再開発され、見違えるような景観になっています。

見覚えのあるビルは、ヨドバシカメラと梅田スカイビルくらい。

「ここ、どこだ?」

大阪グラングリーン。梅田貨物ターミナルだったエリアがすっかり変わってみどりの熊のオブジェがマーライオンのように水を噴き出している。

と周辺をウロウロすることになり、あやうく開演時間に間に合わないところでした(笑)。

なんとか会場に滑り込み、いざ体験です。

目の前に坂本龍一さんがいる

会場に併設されたカフェでは、「教授の愛したパンとコーヒー」と銘打ったエチオピアのコーヒーとクロワッサンサンドの期間限定メニューも。

カフェの入り口。教授が愛したパンとコーヒー特別セットの案内パネル

せっかくなので食べてみたかったのですが……残念、時間がありません(笑)。

開演時間10分ほど前にスタッフに促され、地下のフロアへ移動します。私を含めて10数人といったところ。

階段を下りていくと、若かりし頃の坂本龍一さんのモノクローム写真がお出迎え。

坂本龍一の横顔と若かりし頃のモノクロ写真

さらに奥へ進むと、漆黒の闇が広がっています。

スタッフのガイダンスのあと、それぞれ透過型ヘッドセットを渡され、バッテリーでしょうか?丸い装置を首からぶらさげて、透過型ヘッドセットを頭に装着。

くらい部屋には教授の弾くピアノの音が流れてきます。

「あちらを向いていただいて、ピアノが見えますか?」

促された方向を向いてみると――

「おおおっ。」

YAMAHAコンサートグランドピアノの前に、坂本龍一さんが座って演奏している!

もちろん「複合現実(MR)」だということは分かっています。

それでも、実際に目の前に現れた瞬間のインパクトは、文章力が拙くてなかなか表現できません。

距離や角度によって、ときどき「これは映像なんだ」と感じる瞬間もあります。

しかし、現実のコンサートでは絶対にあり得ない近さ、そしてあり得ない角度から、坂本さんの演奏を見ることができる。

指先のひとつひとつ。

鍵盤を押す動き。

そして、息を吸い、溜めるような呼吸。

本当に目の前で演奏しているかのようです。

そして、ふと意識すると、ヘッドセット越しには周りにいる観客の姿がうっすら見えています。

ヘッドセットを少し上げる。

そこにあるのは、ただのグレーの床に引かれた白いライン。

でも、ヘッドセットを下ろす。

すると――

目の前で教授がピアノを奏でている。

この現実と仮想の境界を行ったり来たりする感覚が、なんとも不思議です。

教授の銀色の前髪が、演奏に合わせてかすかに揺れる。

手を伸ばせば、触れられそうな距離。

でも、触れてはいけない。

静かに、ただ演奏を見守る。

もちろん、そこにいるのは映像データです。

それでも、目の前で演奏している姿を見ていると、そんなことを忘れてしまう。

「触れてはいけない」と思うのは、そこにいるのが単なる映像ではなく、坂本龍一さんそのものの姿として感じられるからなのかもしれません。

手を伸ばすことなく、ただ静かに見つめる。

もう二度と見ることのできないはずだった姿を、私はただ、静かに見つめていました。

「あの曲、この曲」が目の前で

演奏されたのは、私が聴きたかったあの曲やこの曲。

何曲目かで「Energy Flow」の演奏がありました。

演奏前には、「この曲がなんでこんなに受けたのかいまだにわかんないんだよね」

という、ちょっと自嘲的なMCまで。

坂本さんが生前、そんなことを話していたというエピソードを本で読んだことがあったので、それを実際に坂本さんの声で聞けたのも、なんだか不思議な感覚でした。

一連の演奏が終わると、《KAGAMI》の鑑賞は終了です。

……ですが、ここからも展示は続きます。

音楽だけではない「坂本龍一」

ヘッドセットを返却して別の部屋へ進むと、田中泯さんの朗読とともに、静かな時間が流れています。

田中泯さんは『Ryuichi Sakamoto: Diaries』でもナレーションを担当されていましたが、今回も、その静かに語りかけてくる声が印象的でした。

説明するのではなく、聞く側に想像させる。

言葉の間や声の響きまで含めて、作品の一部になっているように感じました。

さらに別の漆黒の部屋へ進むと、そこにはポツンと1台のグランドピアノ。

ここでは、坂本さんの過去の演奏データを使って、グランドピアノそのものを演奏させる「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2026 – D」を体験できます。

くらい地下の部屋に置かれたMIDIグランドピアノ。

運よく最初の回だったこともあり、周りには人がいません。

隅にスタッフの方が黒子として一人いらっしゃいましたが(笑)、最初の数曲は最前列に座った私ひとりで聴くことになりました。

目の前で静かに鍵盤が下がり、ダンパーペダルが踏み込まれていく。

さっきまで透過型ヘッドセット越しに、実際に演奏する坂本さんの姿を見ていたからでしょう。

姿は見えないのに、

「今、この椅子に教授が座って演奏している」

そんな錯覚を覚えました。

YMO一色だった、私の小・中学生時代

思えば、私の小・中学校時代はYMO一色でした。

どこへ行っても『テクノポリス』や『ライディーン』が流れていた時代。私自身、その音楽や、坂本龍一さんたちが切り拓いていった世界に、ものすごく影響を受けたと思います。その中でも、私にとって特別な存在だったのが、「教授」と呼ばれた坂本龍一さんでした。

坂本龍一さんは、音楽だけではなく、テクノロジーそのものにも強い関心を持っていた方だったと思います。

坂本龍一さんとヤマハのシンセサイザーについては、ヤマハ公式サイトにも興味深いエピソードが紹介されています。

坂本龍一とヤマハシンセサイザー(ヤマハ公式)

外国で公衆電話の受話器をとる若かりし頃の坂本龍一のモノクロ写真

ステージにMacをはじめとするコンピュータを持ち込み、MIDIなどの電子技術を積極的に取り入れ、さらにはインターネットを利用した音楽活動にも早くから取り組んでいました。

1995年には、「三菱電機スーパーセレクション 坂本龍一ツアー’95 D&L with Daizaburo Harada」で、インターネットを使ったライブ中継にも取り組んでいます。

ステージ脇のディスプレイに世界中からのメッセージが流れている。今では当たり前に思えるそんなことに、当時はものすごくワクワクしたものです。

MIDIによるピアノ演奏も積極的にステージに取り入れていましたし、その後も音楽配信やインターネットを使ったライブ配信など、新しい技術を積極的に取り入れていました。

その時代、その時代の新しい技術を取り入れながら、音楽の可能性を広げていった人でした。

そして、亡くなられた後も、その姿が最先端のMR技術によって目の前に現れる。

そう考えると、なんとも坂本龍一さんらしい作品なのかもしれません。

教授が亡くなられてから3年が経ちましたが、こうして新しい技術を通して演奏に触れられることは嬉しい一方で、やはり、ご本人がもうこの世界にいらっしゃらないことを改めて実感すると、残念でなりません。

新しい技術と、変わらない感動

今回の《KAGAMI》で感じたのは、単に「すごいMR技術だ」ということだけではありません。

最新の技術を使っているのに、最後に残るのは、

「やっぱり音楽っていいな」

という、ごくシンプルな感動でした。

入口のポスター

新しい技術は、それ自体が目的ではなく、人がこれまでできなかったことを可能にしたり、これまでとは違う形で感動を届けたりするためのものなのかもしれません。

そう考えると、坂本龍一さんが長年やってきたことと、今回の《KAGAMI》には、どこか通じるものがあるように感じます。

新しい技術や未知の領域に挑み続ける姿勢には、見習うべきところがたくさんあります。

私自身も、行政書士として仕事をしていく中で、これまでのやり方だけにとらわれることなく、変化を恐れず、新しい技術や新しい視点を取り入れながら仕事に取り組んでいきたいと思います。

もちろん、技術を使うことが目的になってしまってはいけません。

大切なのは、その先にいる「人」。

これは、行政書士の仕事にも通じるところだと思います。

新しいものを取り入れながらも、最後に大切にするものは変えない。

そんなことを考えさせられた、とても素晴らしい体験でした。

これから行かれる方へ――ちょっとしたメモ

これから《KAGAMI+》へ行かれる方で、メガネをかけている方もご安心ください。

受付でスタッフの方にメガネを渡すと、測定機器で度数を確認したうえで、対応するレンズを装着した透過型ヘッドセットを用意してもらえます。ただし、対応できる数には限りがあるようです。

また、鑑賞中は自分のメガネを外すことになるので、メガネを入れておくケースを持参することをおすすめします。

そして、これは私自身への反省でもありますが……

大阪駅から会場までの行き方は、事前に確認しておきましょう(笑)。

10数年前の大阪の記憶、まったく役に立ちませんでした。

『Ryuichi Sakamoto & Tin Drum | KAGAMI+』は、2026年10月12日まで、グラングリーン大阪の「VS.(ヴイエス)」で開催されています。日時指定制なので、これから行かれる方は公式情報を確認してからお出かけください。